左手に受ける茶碗の中へ、箸を少しずつ落して、尻尾の先からだんだんに浸すと、アーキミジスの理論によって、蕎麦の浸った分量だけツユの嵩が増してくる。 とれんはずはあるまいどころか捕り損うはずはあるまい。 そうでございますか、私よりえらいですかと笑いもせず怒りもせぬ。 二十四時間の出来事を洩れなく書いて、洩れなく読むには少なくも二十四時間かかるだろう、いくら写生文を鼓吹する吾輩でもこれは到底猫の企て及ぶべからざる芸当と自白せざるを得ない。 第一誰がその女になるんだいと迷亭が聞く。 宿場女郎でも何でも盗られりゃ仕方がないじゃありませんか 暑いとその上へ日傘をかぶる。 現に聖書とか云うものにはその通りと明記してあるそうだ。 きのう貰った花嫁も今日死なんとも限らんではないか、しかし聟殿は玉椿千代も八千代もなど、おめでたい事を並べて心配らしい顔もせんではないか。 小供はとくに寝ている。 目ざす敵と思った奴が、存外けちな野郎だと、戦争が名誉だと云う感じが消えて悪くいと云う念だけ残る。 このほか五分刈、三分刈、一分刈さえあると云う話だから、しまいには頭の裏まで刈り込んでマイナス一分刈、マイナス三分刈などと云う新奇な奴が流行するかも知れない。 山葵が利いたものか、飲み込むのに骨が折れたものかこれはいまだに判然しない。 主人は手持無沙汰に何だ誰だ、大きな音をさせたのはと怒気を帯びて相手もいないのに聞いている。