外面は大方朧であろう。 ところへ花道から俳人高浜虚子がステッキを持って、白い灯心入りの帽子を被って、透綾の羽織に、薩摩飛白の尻端折りの半靴と云うこしらえで出てくる。 世の人に似ずあえかに見え給う 主人夫婦は依然として熟睡している。 よくまああれだけの簡単な材料でかくまで異様な顔を思いついた者だと思うと、製造家の伎倆に感服せざるを得ない。 しばらくして主人は思い出したように全体どこが神秘的なんだいと念のために聞いて見る。 そんな事を聞くだけの価値のある人物でしょうか多々良君は聞かぬ先からすでに寒月以上に構えている。 そうですとも、出鱈目じゃない、ちゃんと証拠があるから仕方がありませんや。 少しも儲けもせん癖に ことに御注意を願いたいのはからきこの世と、あまき口づけと対をとったところが私の苦心ですよほど苦心をなすった痕迹が見えますあまいとからいと反照するところなんか十七味調唐辛子調で面白い。 不思議です事ねえと細君は帰天斎正一の手品でも見物しているように感嘆すると、迷亭もその気になったものと見えて、右から懐中に収めた帽子をわざと左の袖口から引っ張り出してどこにも傷はありませんと元のごとくに直して、人さし指の先へ釜の底を載せてくるくると廻す。 どうも鼠らしくない。 唐津の山の芋は東京のとは違ってうまかあと三平君が国自慢をすると、細君はようやく気が付いて 気味の悪るいと細君しきりに怖がっている。