人間はこの点において大に神に恐れ入っているようである、なるほど人間の観察点から云えばもっともな恐れ入り方である。 上は在天の神ジュピターより下は土中に鳴く蚯蚓、おけらに至るまでこの道にかけて浮身を窶すのが万物の習いであるから、吾輩どもが朧うれしと、物騒な風流気を出すのも無理のない話しである。 入れ代って何だか恐しく光るものが一つ、破れた孔の向側にあらわれる。 うん昨日来た 四本であるけばそれだけはかも行く訳だのに、いつでも二本ですまして、残る二本は到来の棒鱈のように手持無沙汰にぶら下げているのは馬鹿馬鹿しい。 どうして寒月の名を知っているのかいと主人が聞く。 主人は無言のまま座に着いて寄木細工の巻煙草入から朝日を一本出してすぱすぱ吸い始めたが、ふと向の隅に転がっている迷亭の帽子に眼をつけて君帽子を買ったねと云った。 吾輩は無論泥棒に多くの知己は持たぬが、その行為の乱暴なところから平常想像して私かに胸中に描いていた顔はないでもない。 三十円ですたい。 そんな御金があれば泥棒に逢ったって困りゃしないわ 大和魂はどんなものかと聞いたら、大和魂さと答えて行き過ぎた。 それから老梅君も僕同様失恋になって、図書館へは小便をするほか来なくなったんだって、考えると女は罪な者だよと云うと主人がいつになく引き受けて本当にそうだ。 　これでは一手専売の昼寝も出来ない。 君御宮になるより虚子になる方がよほどいいぜ東風君は何だか物足らぬと云う顔付であんまり、あっけないようだ。