すると一分立つか立たないうちに蓋の穴から鎌首がひょいと一つ出ましたのには驚ろきましたよ。 この鍛冶屋のせがれがその牛を盗んだんでさあ。 そりゃ僕の艶聞などは、いくら有ってもみんな七十五日以上経過しているから、君方の記憶には残っていないかも知れないが――実はこれでも失恋の結果、この歳になるまで独身で暮らしているんだよと一順列座の顔を公平に見廻わす。 品物は一々かくんですか ここから出るわいと穴の横へすくんで待っている。 まった、こちらの刃の先は錐に出来ている。 その代りしまいまで謹聴しなくっちゃいけないよと念を押していよいよ本文に取り掛る。 それを片端から蓆でも巻くごとくぐるぐる畳む。 これで見ると人間はよほど猫より閑なもので退屈のあまりかようないたずらを考案して楽んでいるものと察せられる。 　細君は乳呑児を一尺ばかり先へ放り出して口を開いていびきをかいて枕を外している。 さあ坐りたまえとどっちが客だか分らぬ挨拶をする。 出来るだけの能力で人真似をするのである。 どうしてこんな小さな写真を張り付けたんでしょうそこが面白いところでさあと細君と迷亭はしきりに問答をしている。 戸一枚向うに現在敵が暴行を逞しくしているのに、吾輩はじっと穴の出口で待っておらねばならん随分気の長い話だ。