吾輩がかく夢中になって智謀をめぐらしていると、突然破れた腰障子が開いて御三の顔がぬうと出る。 なんちゅ愚な事ですと劈頭一番にやり込める。 この時まで身動きもせずに覘いをつけていた棚の上の怪物は、ここぞと吾輩の額を目懸けて棚の上から石を投ぐるがごとく飛び下りる。 それだからあなたは不人情だと云うんです。 遺憾ではあるがやむを得ない。 細君は覚束なげに鋏を取りあげて、例の蠅の眼玉の所へ自分の眼玉を付けてしきりに覘をつけている。 ええと主人は少し極りがわるそうである。 そんな帯があるものですか。 君だって恋煩いなんかした事はなさそうじゃないかと主人も正面から細君に助太刀をする。 七八両月は休んで九月には何か賑やかにやりたいと思っております。 陰士の御蔭で二度とない悟を開いたのは実にありがたい。 主人はうーん、むにゃむにゃと云いながら例の赤本を突き飛ばして、黒い腕を皮癬病みのようにぼりぼり掻く。 苦沙弥君、これが二十世紀なんだよ。 煮て喰べます