TH39 マックエンコ―神の一手

どうせ自分一人の世の中じゃなし、そう自分の思うように人はならないさ。 主人は無論後架で張り番をしている訳ではない。 逆上家が自分で逆上家だと名乗る者は昔しから例が少ない、これは少々変だなと覚った時は逆上の峠はもう越している。 あはははほんとに度し難い。 あの羽根は平生大事に畳んであるが、引き掻き方が烈しいと、ぱっと乱れて中から吉野紙のような薄色の下着があらわれる。 主人に鶏肉を持って来いと云うと、主人がへえと恐る恐る鶏肉を持って出る。 ダムダム弾は貴重かも知れないが、主人にからかうのはダムダム弾以上に大事である。 ただ混雑と迷乱とを形容するに適した声と云うのみで、ほかには何の役にも立たない声である。 吾輩のいわゆる大事件はこれで一とまず落着を告げた。 この竹をもって組み合せたる四寸角の穴をぬける事は、清国の奇術師張世尊その人といえどもむずかしい。 どうしたか、じゃんじゃんが好きだからねじゃんじゃんばかりじゃねえ……そうかい、あの男も腹のよくねえ男だからね。 人間は愚なものであるから、猫なで声で――猫なで声は人間の吾輩に対して出す声だ。 　主人は分ったとも、分らないとも言わずに聞いていた。 ずるい奴だ。