ヴァイオリンを弾いて殺されるよりも、弾かずに生きてる方が楽ですよ それでよく貰い手があるね なに大丈夫、そのくらいかじったって害はありません 楽器のある店は金善即ち金子善兵衛方ですから、まだなかなかです 強くなるのは嬉しいが、弱くなるのは誰もありがたくないから、人から一毫も犯されまいと、強い点をあくまで固守すると同時に、せめて半毛でも人を侵してやろうと、弱いところは無理にも拡げたくなる。 まさか。 巾着はとにかくだが、じいさんが障子をあけると二日間の溜め呑みをやった煙草の煙りがむっとするほど室のなかに籠ってるじゃないか、悪事千里とはよく云ったものだね。 それは少しひどいと新体詩を捧げただけに東風君が異議を申し立てた。 つよく張った琴線の一部だけがきらきらと白く眼に映ります。 これから買うところですと東風君が答えるとまだ買わないのか、実に永いなと独り言のように云ってまた本を読み出した。 どこへ行ったのだい 這裡の消息を知ろうと思えばやはり懸崖に手を撒して、絶後に再び蘇える底の気魄がなければ駄目だと独仙君はもったい振って、東風君に訓戒じみた説教をしたのはよかったが、東風君は禅宗のぜの字も知らない男だから頓と感心したようすもなく 仕方がないから、ここへ一目入れて目にしておこう しゃべるのは君だけだぜ