船の中？　どうして 独仙君は丹念に白石を取っては白の穴を埋め、黒石を取っては黒の穴を埋めて、しきりに口の内で計算をしている。 無論贋物じゃない、正直正銘、うそいつわりのない上等品ばかり並べておく。 まあ相宿だから呉服屋だろうが、古着屋だろうが構う事はないが、ただ困った事が一つ出来てしまった。 なるほどこりゃむずかしかろう 論より証拠音が出るんだから、小督の局も全くこれでしくじったんだからね。 なあに先生も何もありゃしない。 猫と生れて人の世に住む事もはや二年越しになる。 古人を待つ身につらき置炬燵と云われた事があるからね、また待たるる身より待つ身はつらいともあって軒に吊られたヴァイオリンもつらかったろうが、あてのない探偵のようにうろうろ、まごついている君はなおさらつらいだろう。 悠々とか従容とか云う字は劃があって意味のない言葉になってしまう。 独身の僕まで聞いてるよ 一念万年、万年一念。 主人は情けなくも取り残された。 ハハハハこれは上出来。